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アジャイル開発の優しい教科書

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 わかりやすいアジャイル開発の教科書を読みました。この本の著者の皆さんは関西の方で、いずれの方ともコミュニティにて繋がった方々でした。前川さんには、私が企画した東京の方のイベントでお話を頂いたり、細谷さんとも同じくイベントや本作りでお世話になっています。西河さんには、昔私が関西で開いたイベントに来て頂いたことがありました。お三方ともソフトウェア開発に真摯に向き合っている方々で、私が開発コミュニティに顔を出し始める前から活動をされていて、尊敬する先輩諸氏です。身近に感じる方々がアジャイル開発の、教科書と銘打った書籍を出されると知って、これはどうしても読みたいと思いました。先輩諸氏がアジャイル開発についてどんな言葉を残すのか。どんな言葉を日本の開発現場に届けるのか。楽しみでした。

 本には、様々な工夫が凝らされていました。まずは、構成から。冒頭のテーマは「なぜアジャイル開発なのか」です。Start with Why。いきなり開発プラクティスの紹介ではなく、そもそも、なぜアジャイル開発であろうとするのか、そして、ソフトウェア開発が関与する「価値」とは何なのかに踏み込んでいきます。抽象度の高いテーマなので、すらっと読めてしまうところですが、書籍を一旦閉じて、Whyや価値について思いを馳せると良さそうです。なぜアジャイル開発なのかというWhyに始まり、では現場でどのように導入し定着させていくのか、具体的には何をしたらいいのかというHowへ展開する構成。教科書と銘打っているとおり、テーマに対するカバー範囲は広く、要求を捉えるところから、それを実現するためのエンジニアリングまで。TDDに関してはコードで説明しています。

 本書では、具体的な始め方や学び方のために、いくつかのワークショップを紹介しています。目的や手順を詳しく説明しており、読み手のアクションを助ける内容になっています。他に類書を見ないくらい、ファシリテーションの紹介に力を入れており、この本の特徴にしています。他にも、Smiling Adventureと呼ばれる小さなワークを随所に織り込んでおり、書籍の内容理解を助ける工夫、フーバーストアやマエカワ電器という仮想プロジェクトを題材にストーリーで分かりやすく伝える工夫、実践で遭遇しそうな課題への対処をコラム(「こんなときどうする?」)で補足したりと、書き手の工夫が随所にあふれています。さらに巻末は、書籍の外側で学ぶための場、コミュニティの紹介で締めくくります。

 また、表現の仕方に、この書籍のらしさがあります。要求をこうありたい、こうしたいという「思い」という言葉に、価値をその思いが手に取れるようにすること、すなわち「カタチ」と表現しています。思いからカタチを描き、エンジニアリングによってカタチを実際に作り上げる。カタチはタイムボックスで確認し続ける。思いとカタチを合わせて行くようにする。こういう表現の仕方は私は好きです。

 本書をどういう言葉で表すかと考えたときに、「易しさ」以上に「優しさ」を感じました。数多くの独自の工夫から書き手の、分かりやすく伝えたい、伝わってほしいという思いを私は感じた気がします。この本が日本の開発現場で、アジャイルサムライ以来の全部入り入門書として活用されると願って、紹介を終えたいと思います。

わかりやすいアジャイル開発の教科書

わかりやすいアジャイル開発の教科書