The Dragon Scroll

Be just and fear not.

橋頭堡の中から、ユーザーストーリーマッピング。

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 私が今の会社に入ってすぐに始めた活動に、ソフトウェア開発の入口を揃えるというものがあった。開発の入口を揃えるとは、どういうことかというとお客様と開発会社がソフトウェア開発を始めるときの認識や状況を整えましょうということ。たいてい、必要なソフトウェアについての何らかの企画・コンセプトがあって、さらにブレイクダウンされた要求が記述されたドキュメントがあったり、もっというと画面仕様書までお客様が用意している場合がある。ただし、それらを開発側が受け取りすぐに開発に取り掛かれる状態になっているかというと、なかなか難しい。「画面設計まで終わっていて後は作るだけです」というフレーズをこの世界に居る人達なら、たいてい聴いたことがあるのではないだろうか。現実には、要件定義とは何だったのか、から考え直すことを迫られるわけだが。とかく、この認識と状況と期待がお客様と開発で一致していないことには、引き受ける開発も場合によってはずいぶんと苦労することになる。もちろん、お互いにだ。

 では、何が揃っていれば、開発が始められるのか。このあたりは、アジャイルサムライ−達人開発者への道−などの書籍にあたってみるのが早いと思うので、そちらを読んで欲しいのだけど、1年半前の2011年10月頃に、私が考えたのはいかにしてお客様の視点でかつ開発側が受け取れる形で要求を抽出し、整理するかということだった。道具立て自体はいくらでもある。大事なのは、その後に来る僕らの開発に繋がるためのやり方を模索するという点だった。開発のやり方は現場によって異なるから、一概にこうするべきとは勿論いえない。ただ、要求を整理するのに、重たいプロセスと時間をかけるスタイルは、僕らの開発に合ってないのは言わずもがなだった。このあたり、場合場合によって現場で上手く進めてきていたものの、やり方についての何らかの整理は必要だと、開発を始める前のお客様との会話の中で特に感じた。あるべき入口について伝えるためには、その形が提示できなければならない。

 最初のアイデアが出たのは、天野勝さんからだった。ユーザーストーリーを用いた整理の仕方、ユーザーストーリーマッピングのことだった。関係者が集まってワークショップ形式で行う。天野さんから厚い参考資料を預かり、読み解いてみると良い雰囲気はあるが、実感はない。素振り(実践前の練習)が必要だった。課題感に乗ってくれた、安井力さん、家永英治さんの2人とで、繰り返し素振りを始めることにした。本当に繰り返しで、数をこなした。素振りをするには相手が必要だ。最初は事故を起こしても無事なように社内で。次にコミュニティでの繋がりから。かなり最初の頃に、友人のあまのりょーさんに素振りをお願いして、オフィスに伺わせてもらったこともあった。いつもコミュニティの会場提供でお世話になっている、甲木さんにも弊社に来て頂いたこともあった。数をこなす中で、進め方の勘所が掴めたら、より実践に近く、懇意にさせて頂いているお客様にお願いをして開催させてもらった。

 この頃になると、このワークショップをどう提供していくかという話をしていた。ユーザーストーリーマッピングは開発プロジェクトの最初に1回行なって終わる類いのものではないが、入口を揃えるという点では、開発を始める前にも行うのは間違いない。すなわち開発契約とは別に提供することになる。企画書を作るために、ワークショップ形式で短い時間でざっくりと全容を押さえるのは、有効なやり方だ。やってみた結果、企画の練り込みがもっと必要なことが分かり、開発を始めないこともあるかもしれない。このワークショップは、お客様からの依頼を受けたタイミングで都度開催する、ひとつのサービスとして提供していくことを決めた。

 その後、フィジビリティスタディとして、単発でセミナーを開いた。セミナーを開くためにはまた素振りを行う。同僚の浦嶌くんたちに協力してもらって、安井さんの自宅で休みの日に行ったこともあった。セミナーを開いてみると、いくつかの課題が分かってくる。例えば、そもそも僕らが始めるサービスをお客様に伝える手段が必要だ。このワークショップを特に届けたい相手は、開発を依頼する前の段階、企画を練っている方に向けたいわけだが、折もよく相手に伝える手段を持ち合わせるのは難しいことだ。そこで、ユーザーストーリーを用いたワークショップや、僕らがそれに取り組んでいることを広く知ってもらうために、ある企画を立てた。それが、Jeff Patton平鍋対談だった。2012年の秋ごろに、ユーザーストーリーマッピングを提唱したJeff Pattonが来日するタイミングがあった。彼の日本でのマネジメントを担当していたアギレルゴの川口さんと相談して、アギレルゴさんとのセミナーを共催した。この企画には多くの方に参加してもらうことができた。

 ところで、このワークショップをサービスとして提供するための活動は、通常の仕事にアドオンされるため、常に他の仕事との調整が発生する。プロジェクトが忙しくなると、こちらに避く時間は限りなくなくなる。何かを始めるときには必ずつきまとう話だ。案の定、進行は遅れた。

 さて、サービスとして提供するからには、ランディングページが必要だ。デザイナーの方に、いい感じのページをお願いしたい。ところが、デザイン方面の方々との繋がりはあまり太くない。しかも、僕らの取り組みを理解して、デザインをしてもらうとなると、なおさらだ。幸いにして、Rubyコミュニティからフィヨルド町田さんと繋がり、町田さんから、デザイナーの方々を紹介して頂くことが出来た。自社の予算との調整を経て、最終的に、前田製作所の前田さんにお願いすることになった。そして、ページは完成した

 そう、ようやくご提供できるようになりました。

 ユーザーストーリーによる要求収集ワークショップサービス

ここまで、影に日向に支援して頂いた角谷さんを始め、このエントリに出てきた方々、協力して頂いた方々に、感謝をしたいと思います。ここまで来るのに、恐ろしく時間がかかりました。いつ途中で終わってもおかしくなかったけども、続けてこられたのは、皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。とても小さいけれども、これは僕にとっては、課題山積の中掴みとった橋頭堡みたいなものです。これからが、また次の始まりで、このサービス自体を僕や安井さん、家永といった中心のメンバーが育ていく必要があるし、また別の橋頭堡を築かなければならないのだから。