The Dragon Scroll

Be just and fear not.

発注者と利用者の異なる視点

何年かぶりに、一人で映画を見てきました。
織田信長安土城を職人たちが心を組んで(作品に出てくる言葉。良い言葉ですね)作り上げる
という物語。主人公は、作事の総棟梁、岡部又右衛門と、それを支える職人たち。
http://katen.jp/
大事なことを最初に書くと、私は3回泣きました。


さて、この作品の中で、いくつか面白いところがありました。
それは、冒頭で作事の発注先を発注者(信長)が決めるシーンです。
発注者からは、事前に「吹き抜けの城にしたい」という要望が出されています。
城は持ち主の権威をあらわすシンボルなので、この要望は欠くことのできない重要かつ優先度の
高いものであることが理解できます。
この要望をどのように実現するかが、このコンペの肝です。


コンペのためのプレゼンには、お城の外観と内観を描いた絵と、お城のプロトタイプとして
模型が持ち込まれて、行われます。
外観は、権威をあらわす重要な機能。内観は、そこを利用するものにとってのUIに他なりません。
絵だけではなくて、模型が持ち込まれるところが面白いですね。。
現実に、このような模型を作ってコンペをしていたのかは分かりませんが、映像としてみると
どう見ても、模型はあったほうがいい。
模型には、立体感があります。見るものにとって、よりイメージが作りやすい。


このコンペは、発注者の要望(吹き抜け)を唯一実現しない提案を持ってきた主人公が勝利します。
主人公は、利用者(信長)がこの城に住むということを知り、あえて吹き抜けを採用しませんでした。
それは、発注者の要望よりも、利用者視点でより大切な事柄があることを見抜いたからです。
(それが具体的に何だったかは、作品を観てもらうとして)
発注者の要望は、権威を満たすための機能要求でした。一方、利用者視点では別の要件があり、
それが、前者の要望と排他的な場合、果たしてどちらを優先するべきなのでしょうか。


顧客の言うことをただ満たすものを作っても、顧客のためにはならない。
発注者の出す要望が、利用者にとっての利益に必ずしも繋がらない。
この作品では、発注者=利用者なので、調整が一度で終わりますが、発注者≠利用者の場合、
この調整が難航することがあります。
要望が抱える課題は、言葉や絵で示すよりも、プロトタイプを用いて実際に見せた方が
説得力がありますね。


最後に、印象が残った言葉を。

人、もの、こと、どれが欠けても成し遂げられない。

火天の城 (文春文庫)

火天の城 (文春文庫)