この思いだけは、逃げようとする私の襟首を捕まえて離さなかった。
私が、去年の夏から手がけているプロジェクトが、今月末に終わる。
私の短いエンジニア人生の中で、最も多くの辛い時間を
過ごすプロジェクトになってしまった。
私はこのプロジェクトで、とにかく自分を殺すことに
徹していた。前に進めることだけを考える。他のことは考えないようにする。
それは辛い作業だった。本当に。
昨年の夏、社内カンファレンスを開催した。
あの夏の、あの日、人と組織が持つ可能性に私は震える思いをした。
自分たちはきっと変えることができる。
それは世界を変えることさえもできるんだ。
XP祭りが、その思いを加速させてくれた。
しかし、本当にそうだろうか?
今、目の前の冬のプロジェクトを見ればいい。これが変わった世界なのか?
最も自分が作り出したくなかった世界がそこにはある。
間違いない、デスマだ。
ギャップにずっと苦しんでいた。
忙しい以上に、何かをする気になんてなれないでいた。
最後の最後に自分を支えていたのは意外なものだったことを知った。
何のために、苦しめるだけ苦しんで、仕事をしているのか。
このプロジェクトに限っていったいそれは何なのか、私は考えた。
会社や上司のためか、否違う。
お客様のためか、否違う。
金のためか、否違う。
家族や自分のためか、否ぜんぜん違う。
私は、自分が持つ誇りを守るために、仕事をしていた。
最後にあったのは、職業人として、やり遂げるという使命感だけだった。
この思いだけは、逃げようとする私の襟首を捕まえて離さなかった。
きれいごとだけではすまないプロジェクトや仕事がある。
それに直面し、不可避な状況に陥ったとき、本当に追い込まれた
自分を支えるものは、意外なものかもしれない。